嵐〜テンペスト〜




 序



 一人一人のレベルに合わせたプログラム!

 CMは謳う。
 スパルタ家庭教師も見習ってくれればいいと思う。

 おこさまの実力を正しく判定、意識しないでぐんぐん伸びるプランを組立。

 お気軽にご相談ください。





「おまえも優秀だって云い張るんならさ。あきらかに無理があること、させんの止めろよな」
 ぶちぶちと綱吉は愚痴る。
 どうせ聞いちゃあくれないだろうが、何も云わずにはいられない。
 擦り傷に絆創膏。打ち身に湿布を貼る。
 救急箱の置き場所さえ知らなかったはずなのに、包帯だって巻けるようになった。手当ての仕方が
慣れてきている…こんな自立、イヤすぎる。
 病院送りになってないだけありがたいかも、なんて。
 クエスチョン。
 いつからこんなデンジャラススリリングな人生に?
「云い張るとは何だ。オレは正真正銘、優秀で有能な家庭教師だぞ」
 アンサー、コイツが来てからです。
 リボーンがごりごり頭に押し付けてくる、鉄のかたさに悲鳴をあげた。
「銃口を人に押しつけちゃいけませんってことから教えろよな、先生!」
「おいおいツナ。それくらい、教わらなきゃ判んねーのかオマエ」
「殴りたい…!」
「いたいけな子供に手を上げたいなんてな…非情は美点だが無情は美学がねえ」
「どこからツッコンで良いのか判んないから!」
「突っこむ?ツナの好きなマンガみたいにな、銃口に指突っこんで発射を阻止しようなんて
 莫迦やるんじゃねえぞ。指が飛ぶからな」
「もういいよ…」
 綱吉はがっくり項垂れつつ湿布をぺたり。つめたい。

 今日も痛い目と怖い目を見た。
 風紀委員長は鬼だ。

 彼の愛用する武器は仕込みトンファー。
 でもそんなもの使わなくたって、蹴りのひとつ、拳骨ひとつで綱吉なんか軽くダウンだ。

「誰に手ぇ上げてんだコラァ!」彼を天敵とみなす(いっぱい居るけど)自称右腕は渡りあってくれた。
「大丈夫かツナ?」頼りがいのある友達は助太刀に来てくれた。
 だがそれは、群れの嫌いな雲雀恭弥の荒れっぷりを増しただけだった。

 強い強い酷い速い凄い重い強い烈しい。
 雲雀の動きはそんな攻撃。
 対象になったら最後、痛い痛い痛い以下エンドレス。

「無理なんだよ。無茶なんだよ。ヒバリさんに立ち向かうってこと自体が!」
 彼の前ではものみなすべて頭を垂れよ。並盛ルールだ。血の掟だ。
 守らないと血を見るぞ、という意味で。
「鍛えるだかなんだか知んないけど、変なシチュエーション作るの止めてくれよ。
 大会で優勝するために熊と戦う空手家ぐらいありえないっての。
 特に山本!オレや獄寺くんはともかく、部活あるんだぞ。また野球出来なくなったらどーすんだっ」
 リボーンはにやと笑った。
「いっちょまえに部下の心配が出来るようになってきたか」
「部下じゃない。て、そうじゃなくてえ!」
 話の基本がズレていく。
 綱吉は頭をかきむしった。そうそう、家庭教師。学力レベル。
「だから、イタリア語の本よこして感想書けみたいな? 読めもしないから。無意味なんだから。
 雲雀さん相手じゃ一方的すぎるだろっ」
 雲雀のみならず暴力沙汰にいたるのはまっぴらなのだけど、そんな基本から話したところでリボーンは
汲んでくれないだろう。
「今のおまえが雲雀に敵うわけないことくらい判ってる」
 へー、カテキョは何でもお見通し…綱吉は半目になる。判らいでか。
「ただ、あいつがいれば」
 と、リボーンが云った。
「欲が出るからな」
「欲…って」
 綱吉の脳裏に、友人たちの講評がよぎった。
『相変わらずとんでもねーなー。でも、前よか追えたと思うんだよな』
 静かな闘志が見えた山本は、一試合やって打てなかった球無いもんね!が近ごろの身上らしい。
『次はぜってー果たしますから!必ずです!作戦あります!』
 闘争心あふれる獄寺は云わずもがなだ。
 ふるる、と綱吉は身震いした。
「いやいやいや冗談じゃない、オレあんな人に勝ちたいなんて思わないから!近づかないのが一番じゃん。
 触らぬ神に祟りなしだろ」
 たまに触らなくっても祟るけど。
 正面に立ってガン付けしなければ、確率はもっと減るはずだった。
「ふん?」
 銃の手入れをしていた家庭教師が作業に戻る。
「ま、そう思うんならそれで良いだろ」
 やけにあっさり引き下がる。
 不気味に感じるけれど、自分の心は変わらないし。
 云うなれば、弱者の心得。
「思ってるに決まってるよ。
 とにかく、関わんないからな!」


 そんな会話を、あとで思い出した。




  >前編



 一番最初の本で、いかにも原点でした。