「…何してる」

「え、あ?」

 口づけを解いて男が尋ねた。綱吉が、ゆるゆると上げた両手でその耳たぶを引っぱったからである。

 上からも下からも聞こえる濡れた音が聴きたくなくて、聞かせたくなくて、塞ごうと考えた気がする。

 きれぎれに(何しろ、話しかけておいて手を這わすのを止めもしない)教えたら、男がふーっと息を吐いた(首にかかって鳥肌が立った)。

 もう少し色気のあるしがみつき方をしろ、という含みが勘でわかった。

 だからしがみついてるわけじゃない、という含みで睨んだのを相手もわかったらしい。

 これまた勘だ。自分たちの数少ない共通点というやつ。

 ククっと笑って手の動きを激しくする。

 突きあげが早くなって前に絡んだ指がしごいてあわせたスピードで上下にぬるぬると、引き上げられるから奥底の何かが急激にせりあがってきて。

 逃れようとするのに腰骨から背後にかけてくいこんだ指ががちりと固め、宣言されてるみたいだった。自由は無いもの。

「イヤ、だ、出ちゃ…!」

「出せよ」

「たかいのに…っ」

「…たかいだ?」

「汚れる、だろぉっ、高いいす…!」

 望みどおり波がやんだのも、息をつくのにやっとの綱吉は意識の外だった。


 ただでさえ、この椅子幾らするんだろうと初めから気になっていたのに。

 それを云うならプライベートジェットというものは、そもそも幾らするのだろう。

 飛ばすのには幾らかかるのだろう…飛行機。

 プライベートジェット機の航路というのは、一般の旅客機よりも上を飛ぶよう定められてるそうだ。

 なるほど、他人の下が嫌いな奴にはベストポジションに違いない。

 こんなことをするのにも?

  いまの状況の責任は、綱吉にはない。

 ヴァリアーの長が跳ね馬より短気だったという話だ。

 海や大陸を越えて通う煩わしさに舌打ちし、理由の方が来るべきだと結論した。

 通わないという選択肢は無かったようだ。

 真実神が天上におわしますなら、多分いま物理的に一番近いところで、一番不道徳なことをしている。

 この機が墜ちたら誰もが言うだろう。天罰覿面。


「んあっ」

 ザンザスが、唐突に抜いた。

 つかのま身体が宙に浮き、圧迫にかわって元より熱い箇所が灼けた。

 喉をひきつらせ声も出ない綱吉の昂ぶりを咀嚼して、弾けさせて搾りとる。

 ごくりと喉仏を上下させ、蜜を飲みこむ音もリアルに。


 喰らわれている心地が強くなる。


「…ぁ、ふぅっ…」

 急速に吐きだした余韻で荒い呼吸の口唇に、おしこまれた。

 さきほどまで下腹を苛んでいた、小さな口には余る刃だ。

 前後に突くと、綱吉の舌にこすれて硬度を増した。
  ああこうすれば汚れないだろうね。

 ――なんて、感心なんかするか。

「んん、っむっ」

「―――んな、一杯に頬張ったまま喋れんのか?」

 固定させた頭を揶揄するように揺らす。片手でじゅうぶん綱吉が動けなくなる大きな手。

 好きで頬張ってるわけじゃない。断じて!

 罵るには喉の奥まで支配する熱塊が邪魔で。

 ぐちゃぐちゃにかき回された思考もまだ戻ってないから。おまけに、どろりと苦く広がる味。濡れた下肢にくすぶる感覚――

 せいぜい、出来るのは。

 綱吉は焦点のぶれる瞳で、気力いっぱい睨みあげた。生理的な涙が一すじ、目尻を零れおちていく。

 男がチッと舌打ちした。


 ふたたび前触れなく抜いた。口から。

「ヤァァッ――!!」

 突き入れるとのけぞった。やっぱり止めだ、と耳に吹きこむ。内壁をえぐる。何度も。

 狭さにのめりこんだ。激しさは先刻を上回り、綱吉のあふれる声が止まらない。

 角度を変えて貫かれる肉が熱に馴染んで絡みつく。

 腹の狭間でまたぞろたちあがったモノが、刺激を欲して涙をこぼした。

 黒い髪をかきいだき、綱吉は腰を揺らめかす。


 

 汚れようが破れようがもう、知ったこっちゃない。



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