コピー本ゲスト(? ほとんど合同/笑)。
変な夢を見た。
部屋で寝ていたら、どやどやと入ってきた黒ずくめの一団に持ち上げられて何かに仕舞われ、どこかへ運ばれる夢だ。
「いつまで寝てるつもり」
世にも恐ろしい目覚ましが発動したような気がする。
ばちっと限界まで見開いた目に、いくつも連なった空の座席が見えた。
正面に運転席、運転手の背、大きな窓。左右も窓。…景色が動いている。
不意に体は振動を感じる。エンジン音。
ツナはからっぽのマイクロバスに一人乗っていることをやっと信じた。
一人?
そろそろと目玉を動かす。
すると横にはとんでもない目覚ましが。
「ヒッ……!!!」
「寝汚いね、君」
風紀の雲雀恭弥委員長さまは、だらしない態度を咎めるように目を細くした。
並盛中も三年生が修学旅行に出る時期になった。
年上嫌いな獄寺くんがせーせーしますねと晴れやかに笑い、オレらも来年が楽しみだなと山本は云い、そうだねと今から未来の騒ぎを思い描きながら自分が頷いたのは昨日の帰りだ。
家について、リボーンにこづかれ、夕飯お風呂とあれやこれ、お休みと寝た。
それがどうしてこの状況に繋がるのか。
「…ヒバリさんは、修学旅行に参加しないんですか」
「学校行事は監督するよ」
「…じゃあこのバスは」
「旅行に出発してるけど」
「じゃあ」
もっとも肝心にして訊きたくない気がすることを、深呼吸してツナは訊ねた。
「オレは何でここにいるんでしょう」
「君も行くんだよ」
「ああっやっぱり!?」
あっさり言われて絶望した。
「って、一体なにがどうしたわけですか!」
「移動時間が長いから」
どうして判らないんだと云わんばかりの口調である。
「その間の枕がいるだろ」
「ひざまくら係!?」
この人リボーンより理不尽かもしれないと思うのはこんな時だった。
「オレは二年です、それにえーとえーと旅行代金だって払ってないし」
「それなら大丈夫。僕のしおりには入れさせておいた」
懸命に言い募るツナにうけあい、雲雀は横の座席に置いてあった小冊子を取りあげた。
この人には似合わない小道具は旅行のしおりというやつである。
持ち物一覧のページをツナの顔に突きつける。
ハンカチだのティッシュだの折りたたみ傘だの平和な表の一番下に。
『沢田綱吉』
「んなーーーーーっ?!」
△▼△
「君、年上に過剰な憧れを抱きすぎなんじゃない?」
反論できないのをいいことに、委員長さまはその線で納得したみたいだった。
「あの余所者の金髪鞭男にも懐いているものね。…でも、同性の裸を見て鼻血出して倒れるのは行きすぎだと思うよ」
「ひはふんれふぅぅぅ…」
違います!
とんでもないっす!
云いたいけど、云えない。
はたはたと微風が前髪を揺らす。
ティッシュを鼻にあてて寝転がるツナの頭をお膝に乗せた雲雀が、団扇で扇いでいるからだ…!
長い一日が終わって、露天風呂を使うチャンスが巡ってきたまでは良かった。
まさかヒバリさんが入ってくるなんて。
おまけに、当たり前だが、全裸だなんて!!!
何がどうとは説明できないが、いろいろ衝撃を受けました…。
さらに緊張のあまり動けず、熱い湯の中で立ちすくんで…もとい座りすくんでいたらのぼせてしまっただけだ。
断じて興奮したわけではないが、部屋まで運んでくれた風紀委員たちの哀れむような目が忘れられない。
そしてこんなかたちの、決して頼んでない看病。
神さまオレ前世で何かしたんでしょうか。
血が止まるころ、雲雀がぽいと団扇を投げた。
「まったく、せっかく温泉に入ったのにすっかり冷えてしまったよ。深夜の見回りも出来なかったし」
ちなみに宿に一緒に泊まっている生徒たちは、沢田サマ様ダメツナ菩薩と拝んでいる。
「…ふいまへん…」
頼んでませんなんて云えない。
「君は暖かいね?出血してた割りに」
気づいたように首をかしげる。
そりゃあもう、心臓バクバクいわせてましたから。
声に出さずに答えたツナから離れた雲雀は、敷いてあった布団に入った。
「ならちょうどいいか」
そして、片側をめくってツナを見た。
どうする、オレ!
ツナの窮地はまだ終わらない。
△▼△
山あり谷あり崖っぷち。ツナは未だに大ピンチ。
『あん、あーっ、イイっ』
静まり返った深夜の部屋に、響くはピンクなあえぎ声。
『もう、もう、入れてっ、ぐちゃぐちゃにしてぇ!』
『いやらしい体…このくらいで』
「違うんですうううーー!!!」
絶叫してツナはテレビ画面をわたわた隠した。
一拍開いてしまったのは、スイッチを入れたとたんに流れだしたいわゆるアレな画と音声に石と化していたからだ。
布団に入った雲雀がめくった上掛けの片側は、黄泉の入口とも見えて。(どうして布団なんか存在するんだよこの部屋はっ)
「今日すごい見たいテレビがあるからお先に寝てくださいっ」
いやもうずっと楽しみにしてたやつで!苦し紛れにつけたテレビに裏切られた。
それがかい、と冷静に訊く雲雀の目から画面を隠しつつ探る手は、震えて一向にスイッチが切れない。
振り向いたら見てはイケナイものを見てしまいそうで、でも耳は勝手に音声を拾い、ヒバリは直視出来ないしで一人パニックに陥るツナである。
誰だ前に泊まったやつオレを殺す気かそうか殺し屋の魔手?
「ヒィィ!」
がっと足首が掴まれ、臆面もなく悲鳴を上げる。
殺し屋のではなかったが、ある意味もっと恐ろしい手だった。
「ねえ」
布団から乗り出した委員長である。
「体が冷えたの僕なんだけど。君が原因なのに君の理由で放っておく気?」
だから頼んでないんですってぇぇ!
しかも原因アンタですってばぁぁ!
ツッコミ精神をぐっと堪える。
雲雀が体を起こし、足を掴まれたツナは畳に爪あとを残して引き寄せられていった。
「んきゃー!!」
「夜中に雄たけびあげないで」
そう、夜中なのである。
「僕の前で消灯破りにいかがわしいテレビで夜更かしなんて、愚行のきわみなんだけど。君、今日は働いたからね。褒美にしてあげる」
風紀委員長と褒美という語に繋がりを見出せぬツナが我にかえるより早く、その身は雲雀の胸元に納まっていた。(軽く宙をとんだ!)
「………………は?」
背中に感じる体温は、浴衣二枚ぶんしか挟まっていない、紛れもない雲雀の―――
「………ぅんムガっ!」
「雄たけびあげるなって云ったでしょ」
背後からツナを抱きかかえた体勢の雲雀が、片手で口をおさえこんだ。
「ご褒美に最後まで観ていいよ。観たかったんだよね?」
『いじめて、もっと、ひどくして、ああっ…!』
ひときわ高く啼き声が響いた―――。
本ではジンさんが素敵漫画で続き描いてました。
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