10年後フゥ太×現代ツナ。不思議系?
知らない歳月は皆を変貌させていたけれど、こうくると最早。
だれ。
美少年から貴公子に進化した弟分に、ツナは絶句してしまう。公達だ、公達がいる。
黙って凝視しているのに、フゥ太が嬉しそうに破顔した。
「やっぱりそうだ」
「え?」
「ツナ兄は、カッコイイ年上の男に弱い」
「うぇえ…?」
男に弱いと云われたことより、自分のことカッコイー云いきった事態に唖然とするのは間違ってるだろうか…余裕の笑みで片目を瞑る、砂を吐きそうな所作も十点満点の身につきっぷり。
「いや、でも確かに立派になった、うん」
兄貴を通りこして父親のような感想をツナが述べて。
フゥ太の秀麗な眉は、やや不満げに寄る。
「十年経つよ、ツナ兄」
「あ…、だってな」
「僕は、僕の星での一人前の年になったんだ。修行の旅を終わらせて帰る資格も生まれた。だからツナ兄に云ったんだよ。一緒に行こうって。ツナ兄は苦しそうだった。特に今、ファミリー間で指輪戦が起こり始めてから。ずっと辛そうで僕も苦しかった。でもツナ兄は僕に弱いところを見せてはくれないんだ」
「フゥ太…」
その名前を呼びながら見上げる日が来るとは。そんな差異に気を取られ、言葉を理解するのが遅れた。
「……………星って云った?」
「一緒に行こう。ツナ兄」
願うように告げる、ツナより高い目線のフゥ太。
涼やかな目許、睫毛が瞬くたび銀の星が散って。
優しく手を取られたら足が浮いた。経験のある無重力は、知っているよりずっと安定した浮遊感。
空を飛ぶのだと判った。マントみたいに広がるコート。
「そうか…」
ツナは納得する。
そうか、フゥ太は本当に星の王子様だったんだ。
「てぅわ!?」
ツナが飛び起きると、二段ベッドの下段から獄寺が顔を覗かせてくる。
「どうしました、十代目」
「ヘンな夢か?」
と、こちらは壁の反対の寝床から山本。エキストラベッドを運び込んでいるのだった。
この施設は部屋が余りまくっているのだから、何も三人同室じゃなくて一人一部屋でいいのではとも思う。
だがきっと、いきなりこんな時代に放りこまれて相当不安な顔をしてた自分を気遣ったのだろうと、ツナは友情に感謝している。
そういえばフゥ太も「三人じゃ狭いからツナ兄、僕の部屋に来たら?僕もここに一部屋貰ってるんだ」などと誘ってくれた。何故か見学すらもさせまいとする獄寺の騒ぎぶりに立ち消えになった話である。
朝食後、ラルとの特訓に向かいながらツナは笑い話に夢を語った。
「…なーんて夢、見ちゃったんだけどさ」
各々特訓のある獄寺山本とは別れた後で、寄り添うのは大きくなったフゥ太本人である。
「正夢だったりしないよな」
くすりとフゥ太は笑声をたてた。
その笑いは何故かツナがドキっとするくらい大人っぽかった。少なくとも子供のする笑い方ではない。
あくまで優雅なのに、野太いみたいな余裕。
「十年経つよ、ツナ兄」
夢と同じ台詞を口にする。
「僕に出来ること、昔よりずっと増えたんだ」
思わず立ち止まったツナの手を取って、涼やかに笑いかける。長い睫毛がひらめくたび、視界がきらきらしていくような。
「今のツナ兄なら僕を頼みにしてくれる?」
同じ歳月を重ねてきた彼ではなくて、子供のときのツナ兄なら。
年上の男と子供のおねだりに弱い。ランキングにするまでもなく知ってるよ?
「あのー、フゥ太さん?」
ツナはぎこちなく笑顔を作った。
足下に地面を感じない気がするのは錯覚だと思いたい。