ムクツナ新婚。




 綸言、汗のごとし。
 ボスの言葉は絶対で、覆すなど出来ない。ボス自身でも。
 そんな掟は万人に迷惑!ボス自身である綱吉こそ信じる。

『料理上手と結婚するっ』がどうしたら、そこまで厳粛なる掟に嵌まるのか。

 連日のお世継ぎテロ(*部屋のベッドに女の人が。男が自分だけの会合が。宿泊先にワインとセットで女の人がぁぁぁ)に嫌気がさしてのあの一言が、こうなるなんて誰が思うよ。

 ボンゴリアンな料理大会のボス兼ジャッジ兼賞品席に座りながら、綱吉は遠い目をしていたのだった。それが良くなかった。
 もっとしっかり…現実逃避をしないで、日ごろの疲れをサボって癒したれ、なんて居眠りせずに、瞼をくわっと開いているべきだった。

 とはいえ、世継ぎ、結婚、と来てひらかれるイベントの。

 参加資格に女性のみって書いてないのはそんなに大きな間違いか?

 綱吉がお花畑でチョウチョを追っているうちに、粛々と大会は進められた。
 獄寺の料理は姉の「内緒よ」親切心で黄色い煙をのぼらせ、山本の寿司は唯一サソリが食べられず…
料理→ 獄寺姉→ 変わり種とおとにきくサソリ、やってみよー。だったらしい…(「ジャンルがジャンルだけに
さすがビアンキ大活躍だよ!」)」

 そんなこんな、出てきた最後のメニュー。

 美味かったのだ。肉じゃがが。
 ほくっとして味がしみて柔らかくて煮すぎず。
「あ、これおいしい」「一番好きか?」「うん一番…ってちょっと待ったああああ!?」
「よし、優勝決定だぞ」
 ……参加資格表を作ったのも、そういえばリボーンだったっけ。

 なら綱吉の後悔なんて大したものじゃない。きっとどう転んでも結果は似通ったものだったのだ。

「オレの力なんてちっぽけなものさ…」
「どうしましたツナくん、そんな荒んだ目つきでブロッコリーを睨んで」

 これ一本ならぬ一皿で、お嫁にいけちゃうんだか貰っちゃうんだか大会優勝者の六道骸であった。つまるところ綱吉と一つ屋根の下二人暮らしをしているお相手。
「そんなまわりくどい。新婚ですよ、し、ん、こ、ん」
「誰と会話してんの骸…?」
「お見合い結婚でもラブラブ生活が可能です」
「電波は受信専用にセットしといて。口に出さないで…」

 こんな奴、冗談じゃないのに。
 でも、でも。

「うんまいぃぃぃ」
 出来立て料理を饗されて、なんもかもマジどうでも良くなる。
 じゅわじゅわ溶けるバターの香りがこれでもかと嗅覚を刺激。綱吉はもうたまらない、
 食の欲求の奴隷となるのだ。
 というようなことをまえ伝えてみたら、作り手は複雑な表情をした。「嬉しいんですが嬉しくないような気も。」
 こんなことで勝ちたかったわけでは。
 人格に似合わず繊細なこと言ってる。
 なら勝たなきゃ良かったじゃんとも思うのだ。イカレたイベント参加してまで。
 思うだけで口に出さない。だって素朴な料理に絶妙の味付け。
 これこそ真の料理上手…普通を愛する綱吉には、最上級の普通がいちばんの贅沢なのだった。
 破局をむかえんのは先延ばしでいいかなー。その精神が今の状況を作っているのだが、悟るまでには至らない。

「ほんとウマイ、美味いよ。反則だよ骸なのに」
「あの。なのにって」
 炊き立てご飯をよそってやりながら、骸はぶつぶつと云った。
「06年9月27日記念日に日本から取り寄せた秋の新米を炊いてあげてるこの僕に、何の不満があるのやら」
「それは相殺っていうか」
 気もそぞろにこたえた綱吉にクフンと鼻を鳴らし、骸はお茶碗を差し出す。
「熱いですから気をつけて」
「んー、ん、うまいー幸せーーあちっ」
「…良いですけど」
 最初の頃こそ「ほらほら欲しいですか、欲しかったらオレのなかに骸さんのをちょうだいって言ってごらんなさい」「おやおやそんなにいっぱいに頬張って貪欲な子ですね」などと遊んでいた骸だったりする。だが、こればかりはかけらもプライドのない、素直すぎる反応の綱吉に飽きてやめてしまった。嫌がらないと面白くない。その代わり夜は。

 しかし、と綱吉だって疑問はある。
 言いづらい話だが骸が料理修行する環境にいたとは考えにくい。
「六道輪廻のスキル?」
 前世が究極のレシピを求める料理人だったとか、そんな意味で訊ねた綱吉にべつの意味で肯定が返った。
「そうですよ。修羅道の」
「…しゅら? がきじゃなく?」
 たしか修羅道は戦闘スキル、綱吉は脳裏のメモをひっくり返す(その間ももぐもぐ。)
 餓鬼道ならば技を奪ったり出来るけど…?

「修羅道です、よくやりましたから」
 骸がうっとり秘訣を語った。

「切って叩いてこねて潰して、まだ赤いのをグチャグチャするんです」

 綱吉はハンバーグを噴いた。